試合後のインタビューで、活躍した選手がよくこんなことを言います。
「皆さんの声援が力になりました!」
しかし意地悪な私はこう思うのです。
「本当か?」と…。
というわけで今回は日本のプロスポーツにおけるホームアドバンテージについて考えてみました。果たして声援は力になるのでしょうか…?
(なお、今回は極めて単純な検証にとどめました。例えば入場者数とか、試合の場面ごとでの活躍度合いとか、声量による影響とかいろいろ考えたら面白そうではあるのですが、ちょっと素人が趣味でやる範疇を超えてきますので…。あくまで考えるきっかけぐらいに思っておいてください)
1.ホームアドバンテージの考察
まず、プロスポーツにおけるホームアドバンテージについて考えてみましょう。
ざっと考えられる要因としては、
・ホームチームの方がホームスタジアムでのプレーに慣れている
・ホームチームの方がファンの人数が多く、声援を多く受けられる
・ホームチームの方が設備が充実している(そんなに露骨に差をつけているチームがあるのかは分かりませんが…)
・審判がホームチームに有利な判定をする(そんな露骨に偏った審判がいるのか分かりませんが…)
・ホームチームの方が移動距離が少なく疲労も抑えられる
といったところでしょうか。
いずれにせよ、どれもこれも客観的な指標を出すのは極めて難しそうなものばかりです。
というわけで、今回はホームアウェイの勝率を出すくらいにしておきます。それ以上は深追いできません。
また、野球においては特殊事情として、
・先攻、後攻がはっきり分かれている
・球場の形状がまちまちで、ホームチームはホームスタジアムで勝ちやすくなる戦略を取れる(狭い球場ならホームランバッターをそろえる、広い球場なら守備範囲の広い外野手をそろえるなど)
といったことも考えられます。
これについては次にもうすこしじっくり考えてみます。
2.野球における後攻の有利性
これについてはネットで探してみると先行研究がいろいろ出てきますが、ホームアドバンテージの概念がない高校野球においても、基本的には後攻の勝率が高いのだそうです。
ちなみに下記の論文によれば、後攻の勝率が高い理由としては、
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpehss/advpub/0/advpub_17029/_pdf/-char/ja
・実績のある高校は後攻を選び、ない高校は先攻を選びやすい
・後攻は先攻が取った点数に応じて戦略を選べる
・試合終盤になると後攻が心理的に有利になる(後攻は最後点を取ればいいだけなので)
といった可能性を挙げていますね。
ただざっと読んだだけですが、これに加えていろいろ複雑な状況も絡んできますので、これらだけで単純に論ずることはできないようです。
興味のある方はじっくり読んでみてください。
とりあえず客観的な事実としては、例えば実績がほぼ互角であると考えられる夏の甲子園決勝においても後攻の勝率は55%を超えているということです。ちょっとサンプルが少ないですけどね。
column.sp.baseball.findfriends.jp
ただ近年では先攻の勝率が高かったりするので、本質的に後攻が有利なスポーツであるかどうかは何とも言えませんねえ…。
ここでは野球においてはおそらく後攻が有利らしい、という程度にとどめておきましょう。
3.プロ野球、Jリーグ、Bリーグのホームアドバンテージ
さて、準備も整ったので早速本題に入っていきましょう。
まず取得したデータですが、
・2017~2019の3年間のプロ野球、Jリーグ、Bリーグのホームチームの勝率を調査(2020以降は無観客試合などもあったため除外)
としました。
とりあえず、まずは結果を見ていきましょう。
・プロ野球
ホームチーム 1342勝 1178敗 勝率.533
ということでホームチームの方が約6%勝率が高いということになりました。
このくらいのサンプルがあれば誤差は±2%以内に収まるので、どんなに悪くてもホームチームの勝率は51%以上はあると考えてもよいでしょう。
ここで先ほどの高校野球決勝の結果(後攻がおよそ勝率55%)と比べてみますと、サンプル数の少なさの問題はあるもののプロ野球におけるホームアドバンテージは明確に勝率を高めているわけではない、と言えそうです。
もちろん、本当はつぶさに要因を検討していかなきゃいけないんでしょうが、ここではこのくらいにしておきましょう。
・Jリーグ
ホームチーム 1299勝 1077敗 勝率.547
(ただし、簡単のため引き分けについては考慮しない)
やはりホームの方が勝率が高いのですが、面白いのは後攻先攻の差がある野球以上にホームの勝率が高い、ということです。
とはいえたかだか1%ちょっとの差なので明確にJリーグの方が高いとも言い切れないですが、それでも大きな差がないというのは面白いところです。
考えられる理由としては、プロ野球ではチーム数が少ないためにビジターチームも年に10試合以上そのスタジアムで試合をするのに対し、Jリーグでは基本年に1回しか試合をしないので、スタジアムに対する慣れがホームとアウェイで明確に違う、といった可能性は考えられるでしょう。
あるいはアウェイチームは引き分け狙いの戦略も取ることが多いので、引き分けも含めて考えたらまた変わってくるかもしれません。ただ、今回はここまでにしておきます。
ところで、もう一つカテゴリ別の成績も見てみることにしましょう。
サポーターの声援量というのは基本的にJ1>J2>J3となるはずですので、声援が力になっているのであればおそらくホームの勝率もこの通りになると考えられます。
J1 ホームチーム 382勝 322敗 勝率.543
J2 ホームチーム 560勝 468敗 勝率.545
J3 ホームチーム 357勝 287敗 勝率.554
なんと、微々たる差とはいえ全く逆の結果になってしまいました。
まあアウェイサポーターの声援、あるいは声援以外の要因を無視してしまってはいるのですが、それでも「皆さんの声援が力になりました」、というのは気のせいなのでしょうか…?
・Bリーグ
ホームチーム 1710勝 1530敗 勝率.528
やはりホームの方が勝率が高いというのは間違いなさそうですが、プロ野球、Jリーグよりは少し低そうです。
プロ野球やJリーグに比べて観客数が少ないから、というこじつけはできるのですが、明確な理由は不明としておきましょう。
こちらについても、同じようにカテゴリ別で見てみます。
B1 ホームチーム 849勝 771敗 勝率.524
B2 ホームチーム 861勝 759敗 勝率.531
こちらも、なぜかB2の方がホームの勝率が高いという結果になってしまいました。
まあ、思い通りの結果にならないというのは理系あるあるですね^^;
4.まとめ
というわけでまとめてみますと、
・プロ野球、Jリーグ、Bリーグ全てにおいてホームの方が勝率が4~6%程度高い
・ただし、ファンの声援が勝率に影響を及ぼしているかどうかは不明
と結論付けてみます。
でも、選手「皆さんの声援が力になりました」→観客「ワー(パチパチパチ)」っていうのはある意味で様式美なので、それはそれでいいんでしょう。
ホームの方が勝率が高いことは間違いないんですし。
ということで、これからも選手の皆さんには堂々と「皆さんの声援が力になりました」というコメントを使っていただきたいと思います!
そしてもし、より客観的な検証ができる人がいたらお願いします!
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