読売ジャイアンツ創立者にして初代オーナー、プロ野球の父ともたたえられる大人物、それが正力松太郎。
プロ野球界に遺した功績はあまりにも大きいものですが、では果たして全くの善人だったのかというと疑問符の付く人物でもあります。
今回は今日に至るプロ野球の基礎を作り上げたと言っても過言ではない正力松太郎を、功罪の両面から紐解いてみたいと思います。
１．功の部分
正力松太郎は1885年富山県に生まれ、1969年に84歳で亡くなるまで常に日本の中心にいた人物でした。
1924年日本では朝日新聞、毎日新聞の二強体制でしたが、その当時不振だった読売新聞を東日本最大の新聞に押し上げた人物こそ正力松太郎です。
そんな正力の遺した功績で最も大きなものの一つが、読売ジャイアンツの創設でしょう。
正力は、1934年当時まだアマチュア野球しかなかった日本にベーブルース、ルーゲーリックといった往年の名選手を含む大リーグ選抜チームを招へいしました。
計17試合行われたこの興行は多くの日本人の注目を集め、1試合当たりの観客が6万5000人に達することもありました。
今の東京ドームや甲子園でも4～5万人でいっぱいなのを考えると、この動員数は驚異的です。
もちろんこの模様は読売新聞にも大きく掲載され、部数拡大に大いに役立ちました。
大きな実力差があったため基本的には大敗が続いていたようですが、その中でもメジャーリーグ打線を8回1失点に抑えた沢村栄治のピッチングは大きな話題となりました。
舞台となった草薙球場には、未だに沢村栄治とベーブルースの像が設置されているほどです。
この時の全日本チームをベースとして結成されたのが大日本東京野球倶楽部、のちの読売ジャイアンツです。
1936年に行われた第1回職業野球日本リーグにおいては、慶応義塾大学に進学が決まっていた沢村栄治を正力は「一生面倒を見る」と言って説き伏せ巨人に入団させました。
また同様の手法でスタルヒンも入団させ、初年度の優勝も含めて11年で8度の優勝を飾ったことで、正力の作り上げた巨人は一躍日本球界の中心に躍り出ました。
こういった功績をたたえられ、正力は1959年野球殿堂入り。
それどころか日本プロ野球界に貢献した人物に毎年贈られる賞には「正力松太郎賞」と名前が付くなど、現在に至るまでその名は残り続けています。
といっても今は基本的に日本シリーズで優勝した監督に贈られるだけなんですけどね。
２．罪の部分
突然ですが、以下はネットに流れる「正力松太郎の残した功績を打線にした」というコピペです。（真偽のほどは保証しません）
1(遊) 一生面倒を見ると約束をして中学中退で入団させた沢村が中卒のせいで徴兵されて故障したら解雇
2(右) 戦前は戦争を煽り続けA級戦犯として起訴される
3(一) A級戦犯の罪を不起訴にしてもらう代わりにCIAのスパイに転向し工作活動を行う
4(投) 巨人軍の創設者
5(中) 関東大震災で朝鮮人が暴動を起こしたとデマを流し朝鮮人が大量虐殺される
6(左) 原発を日本に持ち込み原子力委員会の初代委員長に就任して原発の父と呼ばれる
7(三) 中学生のスタルヒンに巨人に入団しなかったら家族全員強制送還させるぞと脅迫して入団させる
8(捕) 特高を指揮し無実の人間を大量に拷問にかけ殺害
9(二) 巨人軍は常に紳士たれとの言葉を残し巨人の選手は人間として模範となるよう求める
…あれ？いくつか不穏なものがあるような…。というかほとんど不穏なような…。
というわけでここからは正力松太郎の裏の顔を見ていきたいと思います。
1(遊) 一生面倒を見ると約束をして中学中退で入団させた沢村が中卒のせいで徴兵されて故障したら解雇
沢村栄治はメジャーリーグ相手に快投するほどのピッチャーだったわけですが、それだけ肩が強いとなると日本軍にとっても貴重な戦力となります。
しかも沢村は正力の誘いにより慶応大への進学をせずにプロ野球入りしたので学歴がなく、兵役を逃れるすべがありませんでした。
その当時はプロ野球選手にそれだけの社会的地位がなかったことの裏返しでもありますが…。
そのため1938年、陸軍に入隊させられることになります。
軍ではその肩を生かして手りゅう弾を多投させられましたが、それがあだとなり生命線である右肩を壊してしまいます。
その影響で巨人に戻っても往年のような活躍ができずにいたのですが、1943年突然クビを宣告されます。
一生面倒を見ると言ったはずなのに、正力がプロ野球に誘ったために軍に行く羽目になり、さらにそれが原因で解雇されてしまったのです。
1944年に戦地に赴き戦死してしまった沢村自身の人生はとても悲劇的ですが、その悲劇の引き金を引いたのは他でもない正力松太郎であったということです。
7(三) 中学生のスタルヒンに巨人に入団しなかったら家族全員強制送還させるぞと脅迫して入団させる
初期ジャイアンツで沢村栄治と並ぶエースピッチャーと言えばスタルヒンですが、そちらについても穏やかでないエピソードが残っています。
スタルヒンは学生当時旭川中学校（旧制中学なので今でいう高校）で甲子園に出場するという夢を持っていました。
一方、先述の日米野球で沢村栄治の好投もあったものの結果的には日本は17戦全敗、さらに翌年も全日本選抜は5連敗を喫していました。
そのため全日本監督の市岡はまず一勝を挙げることを至上命令として課されており（おそらく正力によるもの）、旭川の怪投手であったスタルヒンの引き抜きは秘策ともいうべきアイデアでした。
しかし文部省は学生野球の選手をプロ球団と試合させてはならないと通達を出していたため、学生であったスタルヒンを全日本に参加させてメジャーリーガーと対戦させるのは無理な話でした。
そこで、正力はスタルヒンを大日本東京野球倶楽部へ引き抜くことで穴抜けを図ったのです。
もちろんスタルヒンも、そして学校側も抵抗しますが、スタルヒン自身の経済事情に加え、一家ともども亡命者であり断れば国外追放することをほのめかされたこと、そして警視庁ともコネがあった正力が一家を恫喝したこともあり、スタルヒンは夜逃げするように東京へ発たざるをえなくなりました。
以降は巨人のエースとして大活躍を見せるスタルヒンでしたが、その裏には権力を振りかざした正力の影がちらついています。
9(二) 巨人軍は常に紳士たれとの言葉を残し巨人の選手は人間として模範となるよう求める
そんな正力が死の間際遺した言葉が、巨人にとっての憲章とも言えるものになっています。
・巨人軍は常に紳士たれ
・巨人軍は常に強くあれ
・巨人軍はアメリカ野球に追いつき、そして追い越せ
これらの言葉をどう捉えるかは、読んでいる皆さんにお任せします。
３．まとめ
以上正力松太郎の功罪についてご紹介しました。
人間にはいろんな面があって100％の善人はいないし100％の悪人もいないと思っているのですが、とはいえ正力松太郎を偉人として100％称えるのはいかがなものかと感じます。
いずれにせよ今のプロ野球の基礎を作った人物の一人であることは事実としては間違いありませんが…。
毒も薬も飲みこんで、今日もプロ野球は平和に開催されています。
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