注:本記事は新型コロナウイルス感染拡大後の情報を元にしています
【概要】
オールガイナーレYAJINスタジアムは、2012年開場、鳥取県米子市にあるサッカー専用球技場。
主にJリーグに所属するガイナーレ鳥取の練習拠点として使用されている。
このスタジアムができた経緯を理解するには、ガイナーレ鳥取の歴史を追っていかねばならない。
ガイナーレ鳥取は1983年に創部した「SC鳥取」を前身とするサッカークラブである。
このSC鳥取は更に「鳥取教員団サッカー部」を前身としているが、これは鳥取県米子市を本拠地とするクラブであった。
ここまでさかのぼってやっと「米子」の地名が出てくるのだが、それこそがこのスタジアムのキーワードである。
SC鳥取がガイナーレ鳥取に改称して、Jリーグを本格的に目指すことになったのが2007年のこと。
当時鳥取県でJリーグ開催規定を満たすスタジアムは鳥取市にしかなく、クラブのあった米子市内の競技場ではJリーグを開催できなかった。
そんなわけで、ガイナーレのホームスタジアムとして米子から90キロも離れた鳥取市営サッカー場が使われることになった。
SC鳥取時代からの米子との縁はここで途切れる…はずだった。
そんな最中、米子近くに安倍山と呼ばれるちょっとした砂地があった。
ここはゴルフ場として長年使用されていたが、2004年に閉鎖されていた。
この安倍山にガイナーレの関係者が目を付けた。
「山を掘れば、観客席付きのグラウンドが作れるのではないか?」と…。
この作戦の最後のピースとなったのが、「野人」こと元日本代表でガイナーレ鳥取に加入したばかりの岡野雅行だった。
その頃岡野はオランダの名門アヤックスの練習環境に感銘を受けており、ガイナーレ鳥取の「安倍山サッカー拠点化計画」に賛同した。
更にガイナーレ鳥取の成績好調というタイミングの良さも味方して、岡野は「野人続々!プロジェクト」と題したスタジアムと公園の建設計画を打ち出した。
個人と企業からコツコツと資金を集め、さらに極めて現実的なプランだったことから建設は着々と進んだ。
そしてとうとう2012年に新スタジアム、その名もYAJINスタジアムが完成。
同規模のスタジアムなら30億円以上かかるところ、徹底的なコストダウンでたったの3億円で出来上がった。
全国のスタジアム建設で最も問題となるのがお金だが、YAJINスタジアムに関しては自治体に頼ってもいないし、超格安で必要最低限の設備を作り上げた。
ある意味Jリーグクラブの作ったスタジアムとしては理想形と言えるだろう。
ただしJリーグからは「スタジアム基準を満たさないし、今後満たす見込みもない」とみなされ、J2リーグの試合開催は特例でも許可できないとの厳しい裁定が下った。
こんなに工夫してスタジアムを作ったのに、根拠のない「スタジアム基準」とやらで却下されちゃうのはなんだか夢がないなあと個人的には思うのだが…。
(身の丈に合ったスタジアムを作ったらちゃんと評価して欲しいのだ)
ただ幸か不幸かガイナーレ鳥取は2014年からJ3での戦いが続いており、J2よりもいくばくかスタジアム規定が緩いこともあって年間数試合をオールガイナーレYAJINスタジアムで開催している。
今後も引き続き鳥取で試合、米子で練習と役割を分けるとのことだが、何しろ90キロ離れているゆえホームなのに移動が過酷、という厳しい状況はこれからも続きそうだ。
【アクセス】
最寄まで★★☆☆☆
最寄はJR境線河崎口駅。
もちろん単線だが、本数は1時間に1本程度で地方にしては多い方。
また米子空港から数駅に位置しており、意外に遠征はしやすい。
それでも、口が裂けても「便利」とは言えないけど…。
水木しげるさんの縁で境線各駅には妖怪の名前がついている。
こちらは傘化け駅。由来はよく分からない。
最寄から★★★☆☆
河崎口駅からは徒歩20分ほど。最寄駅から歩けるJリーグスタジアムって実は結構希少。
ちなみに河崎口駅は近づいても駅だと気付かないほどわかりにくい。特に帰りは駅を見失わないよう気を付けよう。
スタジアムへはまず踏切を渡ります。
運行は1時間に1本なので遮断機が下りることはほとんどないでしょう。
あまりに何にもない住宅街を歩きます。
本当にスタジアムあるの…?と不安になります。
スタジアムへはここを左折します。いよいよ不安が頂点に達します。
そしてここまでYAJINスタジアムへの案内は一つもありません。Googleマップがないと詰みます。
最後は森の間を抜けていくと…
びっくりするほど突然スタジアムが現れます。
行きも帰りも正しい道をたどるのは至難の業です。
またほとんどの人が車で来場するので、鉄道を利用する人はごくわずか。
周りの人についていこうなんていう目論見も泡と消えます。
ちなみに少し離れたところに駐車場があり、試合時には無料シャトルバスも運行されるようです。
ただそちらも大行列でいつ乗れるか分からない感じでした。来場の際はお気をつけて。
【観戦環境】★★★★☆
このスタジアムの長所はなんといってもその臨場感!
近い。とにかく近い。
一番後ろから見てもこの近さ。これでもいちおーJリーグだよ。
選手同士の掛け声まで聞こえてくる。
サッカーファンが求めているのはこの臨場感だ。
ただしご覧のように屋根は全くないし、トイレもスタジアムの外にしかない。
とはいえ、資金が限られる中で作ったことを考えれば贅沢も言っていられない。
むしろ制限がある中でよくこれほどのスタジアムを作れたな、という感動の方が上回る。
そんなわけでスタメンはこちらのボードに掲示。
めちゃくちゃ小さいが、意外と見える。
そしてスコアと時計はこちら。
時計もめちゃくちゃ小さいが、意外と針の位置が見えるので問題ない。
続いてスタジアム周辺を探検。
入場ゲートを通るとバックスタンドの横にたどり着き、右に曲がるとメインスタンドとアウェイゴール裏。
左に進むとバックスタンド徒歩む側のゴール裏に向かう。
コーナーからの視角もばっちり。
コーナーキックもここから見たら迫力満点だろう(怒られそうだけど)。
メインスタンドに向かうにはアウェイ側スタンドの上側を通っていく。
というわけで階段を上る必要がある。
階段を上るとこちら。上も下も緑だらけ。
公園みたいで気持ちいい。
もちろんここからもピッチはばっちり。
こちらがバックスタンド。
スタンドといってもこんもり土が持ってある簡素なものだ。
そしてこちらはメインスタンド。
山の上にはそのままクラブハウスが直結しているというとても便利な構造。
メインスタンドとの間にはチケットチェックがある。
トイレに行くときにはチケットをお忘れなく。
アウェイスタンドから見るピッチ全景。天気も相まって最高の雰囲気だ。
メインスタンドから見るアウェイ側のスタンド。
あまり多くの人が入れるようには見えない。
こちらがホーム側のスタンド。ほとんど差異はなし。
メインスタンドは座席の上にも少し段差がある。そして座席は年月が経って少し劣化している。
一応テントがある席があるが、ここはスポンサー用?
メインスタンド中央に鎮座するクラブハウス。元々はゴルフ場の建物だったらしい。
そのため、選手入場時はこの階段を降りていく。
なんか宝塚みたい。
バックスタンドの方が入り口やトイレが近く便利だったりする。
そんなバックスタンドはこちら。選手ののぼりやクラブの旗があり見栄えが良い。
座席はほぼベンチのような感じ。メインスタンドに比べると背もたれがないという違いがある。
スタジアム前の広場ではグルメなどのブースが盛りだくさん。
こちらは普段練習場として使われているが、試合時は子供用のスペースになっている。
トイレの横にはガイナーレ仕様の自販機が二つ。
フットサルコートもあり、ちょっとした運動公園としての機能も備えている。
もっと周辺が発展すれば市民の憩いの場として活用できるだろう。
ちなみにガイナーレ鳥取に所属する田中選手がYAJINスタジアム紹介動画を作ってくれている。
田中選手にはガイナーレの広報としてのお給料も支払った方がいいのではないか。
【雰囲気】★★★★★
前述の階段を降りて選手入場。不思議な光景だ。
もちろん帰りも階段を使うので、その間お客さんは通行止め。
お客さんはスタジアムほぼいっぱいの3000人オーバー。
少し窮屈ではあったが、その不便さを補って余りある一体感。
スタジアムの大きさももちろん大事だけど、小さいスタジアムゆえに生まれる一体感というのもJリーグには大事にして欲しい。
お客さんが収まりきらなくなったらそのタイミングでスタジアムの拡大を考えればいいのだ。
お客さんが入る前から大きなスタジアムを求めるJリーグのやり方は順序が逆ではないだろうか?と感じるのだが…。
何よりみんなの力で作ったこの小さなスタジアムで試合をやるなんてとっても夢があるし、それこそJリーグの求めている光景ではないだろうか。
この小さくて最高なYAJINスタジアムでの試合機会をぜひ増やしてほしい。もったいないよ。
そんなこんなで試合にも勝利。喜びをみんなで分かち合った。
うまく言葉にはできないけど、私は山陰という場所がなんだかとっても好きなんだよなあ。
【グルメ】★★★★★
スタジアム前の広場に出店がいろいろ。
本来のスタジアムではないのであまり期待はしていなかったが、いい意味で予想を裏切る充実ぶりだった。
とりかねさんのジャンボ焼き鳥300円。
この値段でこのジューシーさならバッチリ!鳥取だけに鶏肉?
ロイヤルコーヒーさんの鳥取和牛焼き肉丼600円、ジャンボからあげ400円。
こういう和牛っていってもどうせ名前だけでしょ…
というのがお決まりだが、この肉は間違いなく和牛だ!!!
1枚しか入っていなかったが十分お米に被るくらいの大きさがあるし、600円で和牛が食べられるんだから文句のつけようがない。
これまでに食べたスタグルの中でも値段と質のバランスで言えばかなり上位に入る衝撃だった。
一緒に買ったからあげは冷えていたが、おやつには十分な大きさで満足感も高い。
このお店に行列ができていた理由がよく分かった。
スイーツが得意なベルフルさんの冷やしたい焼き250円。
〆にはちょうど良い感じ。良いスタグルには良いスイーツあり。
まあでも、今回は和牛がすべてをかっさらっていったな…。
山陰はいい意味で物価がぶっ壊れている。
そんな山陰に陽を当てた旅の記録はこちら。
【街との一体感】★★★☆☆
米子市内で1枚だけポスターを発見。
ガイナーレのスローガンまで筆で描かれていて気合がすごい。もしかして原紙?
米子の中心にはガイナーレのエンブレムが輝いていた。
こちらは米子空港。ガイナーレ、というより野人の存在感が強い。
奥で水を100円で売っていたので支援がてら購入。
とはいえ米子市内に浸透しているかというと疑問符。
やっぱりもうちょっと試合をやらないと認知度も高まらないかなあ…という現実もある。
【満足度】★★★★★
設備としては物足りなさもあるが、野人を中心にみんなで力を合わせて作ったというなんとも涙ぐましいスタジアムだ。
このストーリーをうまく活用すれば、一気に周辺住民を巻き込んで人気クラブに成長できるポテンシャルを感じた。
とはいえ、主に試合を行う本拠地は米子ではなく鳥取。
簡単にいける距離ではないし、何よりこの素晴らしいスタジアムで行われる試合は年数回にとどまっている。
開幕から30年経った今、Jリーグは原点に立ち返るべきではないだろうか。
Jリーグが本当に求めるのは大きくて快適でもスカスカのスタジアム?それとも小さくて不便でも活気のあるスタジアム?
その問いの答えは、YAJINスタジアムにある。
索引を作りました!
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