スタ辞苑〜全国スタジアム観戦記〜

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国体とJリーグスタジアム~脱・国体スタジアムへ~【コラムその62】

「国体」という大会をご存じでしょうか?

見たり出たりしたことはなくても、名前は全国民が知っていることと思います。

 

正式名称を国民体育大会といい、毎年9月に各都道府県持ち回りで行われています。国体に出場したことがある、という肩書はそれだけで一つのステータスになるほどです。

 

そんな国体は、このブログで取り扱っているJリーグのスタジアム事情にも大きな影響を及ぼしてきました。

そこで今回は、国体と日本のスタジアム事情についてご紹介します。

 

↓下記陸上競技場と専用スタジアムを数えてみた、の記事も併せてご覧ください。

sportskansen.hatenablog.jp

 

1.国体の歴史

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国体、という名前はご存じかと思いますが、意外とその中身についてはなかなか知らないのではないでしょうか。

 

第1回が行われたのは戦後すぐの1946年、近畿地方で行われました。当初は甲子園のようにずっと西日本で行われる予定でしたが、第2回の石川国体を機に全都道府県の持ち回りで行われています。

 

国体は実は都道府県対抗という形をとっており、男女総合優勝した都道府県に天皇杯、女子優勝した都道府県に皇后杯が贈られることになっています。このことを知っている国民がどれほどいるのでしょう…。

で、なぜ話題にならないかというと、開催地が優勝することがほぼ慣例化しているからです。そもそも開催地に有利なルールになっていたり、有力選手を積極的に公務員として採用するなど資金を投入するんだそうです。

そうまでして優勝することに何の意味があるんでしょうか…。おかげで、どの都道府県が優勝した、などということは一切ニュースになりませんね。

 

なお、国体は2024年より「国民スポーツ大会」と名称を変えます。国スポ、と呼ばれることになるでしょうが、浸透するには時間がかかりそうです。

 

2.Jリーグで使用される国体スタジアム

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さて、国体が残すレガシーとして、いわゆる「ハコモノ」があります。スタジアムだったり、アリーナだったり、プールだったり多岐にわたります。

 

その中には、JリーグやBリーグなどプロスポーツリーグで活用されているものも多く存在しています。ここでは、Jリーグで活用されている国体スタジアムを列挙していきます(抜け漏れがあったらスミマセン…)。

1950、1994年 愛知国体 名古屋市瑞穂公園陸上競技場(名古屋グランパス)

1962、2005年 岡山国体 岡山県総合グラウンド陸上競技場(ファジアーノ岡山)

1963、2011年 山口国体 維新百年記念公園陸上競技場(レノファ山口)

1969、2014年 長崎国体 長崎県立総合運動公園陸上競技場(V・ファーレン長崎)

1972、2023年 鹿児島国体 鹿児島県立鴨池陸上競技場(鹿児島ユナイテッドFC)

1983年 群馬国体 群馬県立敷島公園県営陸上競技場(ザスパクサツ群馬)

1986年 山梨国体 山梨県小瀬スポーツ公園陸上競技場(ヴァンフォーレ甲府)

1987年 沖縄国体 沖縄県総合運動公園陸上競技場(FC琉球)

1991年 石川国体 石川県西部緑地公園陸上競技場(ツエーゲン金沢)

1992年 山形国体 山形県総合運動公園陸上競技場(モンテディオ山形)

1993年 徳島国体 徳島県鳴門総合運動公園陸上競技場(徳島ヴォルティス)

1995年 福島国体 福島県営あづま陸上競技場(福島ユナイテッドFC)

1996年 広島国体 広島広域公園陸上競技場(サンフレッチェ広島)

1998年 神奈川国体 横浜国際総合競技場(横浜F・マリノス)

1999年 熊本国体 熊本県民総合運動公園陸上競技場(ロアッソ熊本)

2000年 富山国体 富山県総合運動公園陸上競技場(カターレ富山)

2003年 静岡国体 静岡県小笠山総合運動公園スタジアム(ジュビロ磐田サブスタジアム)

2008年 大分国体 大分スポーツ公園総合競技場(大分トリニータ)

2009年 新潟国体 新潟スタジアム(アルビレックス新潟)

2012年 岐阜国体 岐阜メモリアルセンター長良川競技場(FC岐阜)

2013年 東京国体 東京スタジアム(FC東京、東京ヴェルディ)

2017年 愛媛国体 愛媛県総合運動公園陸上競技場(愛媛FC)

 

はあはあ、疲れた…。日本に58あるJリーグクラブのうち、なんと3分の1以上となる23のクラブが国体で使用されたスタジアムを使用しているのです。

すなわち、Jリーグのスタジアムと国体はどうやっても切っては切れない関係になっている、というわけです。

 

3.国体スタジアムの功罪

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以上のように、国体が日本のスタジアム事情に果たした功績は大変大きいことは間違いありません。

全国の都道府県にこれほど多くのJリーグクラブが作れたのは、国体スタジアムがあったからです。Jリーグクラブのために新しくスタジアムを作るというのはあまりに負担が大きいことですから。

 

ところが、近年国体スタジアムから移転する、あるいは移転を予定しているクラブが多発してきています。具体的に挙げますと、

ツエーゲン金沢 石川県西部緑地公園陸上競技場→(2023新スタジアム)

京都サンガFC 京都市西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場→京都府立京都スタジアム

ガンバ大阪 万博記念競技場→市立吹田サッカースタジアム

セレッソ大阪 長居陸上競技場→長居球技場

サンフレッチェ広島 広島広域公園陸上競技場→(2024新スタジアム)

などなど。これ以外でも具体的な動きはまだないもののいくつかのクラブが移転したいという話が上がってきています。

 

国体で使われた立派なスタジアムがあるのになぜ…?という話ですが、これにはいくつかの理由があります。

 

・とにかくデカい

国体で使われるスタジアムには、「3万人が収容できる施設」という規定があります。

もちろん、これだけの規模のスタジアムであればJリーグで使うのに十分ですし、事実J1ライセンスの取得を見越して栃木SCはわざわざ国体で使われるカンセキスタジアム栃木への移転を予定しています。

 

ただ…ほとんどのJリーグクラブにとっては大きすぎるのです。

Jリーグの歴史上、1シーズンの平均観客数が3万人を超えたことがあるのは浦和レッズとアルビレックス新潟の2クラブしかありません。

 

特にJ2やJ3で戦うクラブにとっては、3万人が埋まることなどほとんどありません。

無駄に大きい分維持費もかかりますし、空席が目立ってスタジアムの一体感も生まれにくくなります。

Jリーグクラブにとってはよりコンパクトな方が都合がいいのです。

 

・アクセスが悪い

国体で使われるスタジアムは、基本的にアクセスが悪いです。その象徴的存在が「宮城スタジアム」です。

こちらは国体やワールドカップなどでも使われ、東北でも随一の規模を誇る立派なスタジアムなのですが、最寄駅から徒歩1時間ほどかかる、道が狭くて大渋滞が起こるなどの大きな問題を抱えています。

ベガルタ仙台もかつて宮城スタジアムで試合を行っていましたが、あまりのアクセスの悪さに客足が遠のき現在では全く試合を行っていません。まさに負の象徴と言えるスタジアムです。

 

なぜこんなにアクセスが悪いかというと、国体で使われるスタジアムは基本大規模なため、アクセスのいい立地にスペースがなく結果的に郊外に作られてしまうのです。また街の発展具合を均衡させるためにあえて市街地から離れた場所に作ることもあるようです。

国体など短期間なら我慢すればよいですが、Jリーグなど半永久的に使う場合はアクセスの悪さは致命的となります。

 

・見にくい

国体で使われるスタジアムは、基本的にすべて陸上競技場です。

すなわち、客席とサッカーのピッチの間にはどうしても陸上トラックがあります。その距離の分、どうしたって観客席からは見えにくくなります。

Jリーグクラブからしたらトラックは不要なのですが、もちろん国体では陸上競技を行うので作らないわけにもいかず…。

結果的にサッカー観戦に適しているとは言えないスタジアムが完成してしまいます。

 

 

こうした国体スタジアムの使い勝手の悪さゆえ、近年では上記のように脱・国体スタジアムを果たすクラブが出てきています。

 

とはいえなかなか資金面の問題もあり地方のクラブはまだ脱・国体スタジアムは現実的でないところもあります。その中で最近一番面白い動きをしているのがテゲバジャーロ宮崎でしょう。

宮崎にも国体スタジアムはあるのですがそちらを使うことはせず、新富町とテゲバジャーロ宮崎の主要株主であるエモテントが協力してユニリーバスタジアム新富を作り上げました。

現在は小さなスタジアムですが、将来的に拡張できるように作られており、脱・国体スタジアムの先鋒となってくれるのではないかと思っています。

地方からスタジアムを変えていってほしいですね。

 

4.まとめ

国体のおかげで全国にスタジアムが作られ、Jリーグクラブが広まっていったのは紛れもない事実です。

その部分に関しては間違いなく国体の大きな功績と言えるでしょう。

 

しかしその使い勝手の悪さから、脱・国体スタジアムの動きが進んでいることもまた事実です。

国体自体の是非は置いておくにしても(国体自体も色々問題があるとは思いますが…)、せっかく国体をやるのなら大会後も使えるような施設を残せるよう大会自体も時代に合わせてアップデートしていく必要があるのではないでしょうか。

 

その一方でJリーグ側も自治体におんぶにだっこになることなく、例えばテゲバジャーロ宮崎のように自らの力でスタジアムを作っていく努力も必要なことだと思っています。

自治体にお金を出してもらっておいて、Jリーグで使いやすいように作れというのはそれはそれで筋の通らない話です。

 

お互いが歩み寄りながら、なるべく無駄のないスタジアムを全国に作っていってほしいですね。

 

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