夏に行われる野球大会、と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?
おそらく100人に聞けば、99人が高校野球、すなわち甲子園を思い浮かべることでしょう。
しかしもしかしたら、100人中1人は別の大会を思い浮かべるかもしれません。
そう、もう一つの夏の風物詩と言えば、社会人野球日本一決定戦、都市対抗野球です!
しかしこれはただの日本一決定戦ではありません。90年以上の歴史を持つ伝統的な大会であるのに加え、かなり独特な文化を持った非常に面白い大会なのです。
そこで今回は、夏を告げる社会人の熱き戦いである都市対抗野球を紹介します。
1.都市対抗野球の歴史
都市対抗野球が始まったのは1927年、プロ野球が始まる10年近くも昔のことです。
橋戸信さんという新聞記者が、地域に根差したメジャーリーグにヒントを得て「日本の各都市を代表する野球チームを競わせる」大会を作ってはどうかと提案したのが始まり。
1993年に開幕したJリーグをきっかけに日本各地に地域密着型のスポーツチームが広まっていきましたが、実はそのはるか昔に地域密着の考え方はこんな形で輸入されていたんですね。
開幕当初は神宮球場で行われ、その後後楽園球場などに移りながらも1988年から東京ドームで開催、以降毎年7月に行われる社会人野球ナンバーワンを決める大会として定着しています。
都市対抗野球が行われる東京ドームはこちら。
なお、第1回から第3回までは日本ではなく中国の大連市が3連覇しています(当時は日本の統治下だったわけですが…)。
現在では優勝チームとしてトヨタ自動車(豊田市)、Honda(狭山市)、JFE東日本(千葉)、JR東日本(東京)、NTT東日本(東京)など、日本を代表する大企業の数々が名を連ねています。
2.ここがヘンだよ都市対抗野球
そんな都市対抗野球ですが、もう一つの社会人野球ナンバーワン決定戦である社会人野球日本選手権と比較してもかなり独特な文化があり、根強いファンがいることでも知られています。
今回はそんな独自の文化を紹介していきます。
・対戦相手から選手を補強できる!?
都市対抗野球最大の特徴と言えば「補強選手制度」です。
東京ドームに集まってくるチームは各地区の予選を勝ち上がってくるわけですが、その際に対戦相手の負けたチームから最大3人まで選手を補強することができます(ただし前年度優勝チームは予選を免除される代わりに選手の補強はできません)。
なぜこのような制度ができたのかというと、1950年にプロ野球が2リーグ制になったことで選手が引き抜かれ社会人野球のレベル低下が懸念されたことがきっかけ。
補強選手によって大会のレベルも保たれ、より地域の代表らしさが増すことにもなります。
そして今では都市対抗野球において補強選手は大会のカギを握る存在になっています。
補強選手が活躍すれば大会に出場しているチームもうれしい、負けたチームもうれしい、そしてその地域で応援している人ももちろん選手自身もうれしいですし、全体にとってモチベーションになる存在ですよね。
もちろん、その一方で補強選手にレギュラーの座を奪われる選手もいるわけですが…。
・表彰の方式が独特?
都市対抗野球のもう一つの大きな特徴が「表彰」です。
野球の大会であれば優勝と準優勝、あとはMVPやベストナインなどを選出するくらいですが、都市対抗野球ではかなり独特です。
成績上位チームには旗が贈られる
都市対抗野球では、優勝チームには黒獅子旗が送られます。これは画家の小杉放庵がデザインしたもので、中央に今にも飛び跳ねようとする獅子が描かれています。
黒獅子旗は都市対抗野球の象徴であり、1942年に朝鮮の全京城が優勝しソウルに持ち込まれた黒獅子旗を秋山光夫氏が決死の思いで日本に持ち帰った、という逸話も残っているほど。
社会人野球に関わる人全員の魂がこもっているのがこの黒獅子旗なのです。
以降、準優勝チームには白獅子旗、3位チームには黄獅子旗、各地区の第一代表を勝ち取ったチームには青獅子旗が贈られます。
なお、2010年の東北予選を勝ち抜いた日本製紙石巻は東日本大震災で青獅子旗を流されてしまいましたが、その後奇跡的に見つかり現在では東京ドームの野球殿堂博物館に展示されています。
優秀選手には賞が贈られる
個人に対しても様々な賞が贈られますが、これがかなり充実しています。
まず優勝チームの最優秀選手に贈られるのが橋戸賞。一般的にはMVPと言われるものです。由来はもちろん都市対抗野球創設に尽力した橋戸信から。
歴代受賞者の中にはプロ野球で201勝を挙げた平松政次やメジャーリーグで活躍した田沢純一などそうそうたる顔ぶれが並んでいます。
最近ではDeNAを戦力外になった須田幸太がJFE東日本に入社し橋戸賞を受賞しています。
準優勝チームで最も活躍した選手には久慈賞が贈られます。これは1939年に試合中の事故で亡くなった久慈次郎に由来するもの。函館にあるお墓は野球ボールがかたどられています。
受賞者の中には梵英心などプロで活躍した選手の名前も。
大会を通じて活躍した選手、監督、コーチに贈られるのが小野賞。由来となった小野三千麿は補強選手制度を導入するなど都市対抗野球の発展に寄与した人物です。
また10年連続出場選手も表彰されます。トーナメントである都市対抗野球で10年連続出場するためには、チームの強さもさることながら補強選手にも選ばれる実力を持っていなければならず、すなわちその地区では抜きんでた実力の持ち主ということですね。
更に新人賞である若獅子賞や印象的な一打を放った選手に贈られる打撃賞、20人前後が選ばれる優秀選手賞など、表彰は多岐にわたっています。
なんであれ表彰された選手はうれしいでしょうから、表彰が多い分には良いでしょうね。
・各社のプライドをかけた応援合戦!
観客として観る我々にとって一番楽しいのがやっぱり応援です。
各社が趣向を凝らし、そして地域の特色を取り入れた独特の応援には見入ってしまいます。
その熱気はプロ野球のそれにも決して劣るものではありません。いや、もしかしたら上回っているかも…。
それほどまでに応援がアツいのです。
その応援の熱気に拍車をかけているのが応援コンクールの存在。選考基準は様々ですが、応援が盛り上がったり工夫が凝らされていたチームに対して表彰が贈られます。
そしてチームにもよりますが、チーム券を配布しているところもあります。これはチームを応援する代わりになんと無料で試合観戦できるというもの。
チケットの取り方は簡単で、東京ドームに試合日に行ってチーム券の列に並ぶだけ。場合によってはちょっとした用紙に記入したり後援会に入っていないといけない、という場合もあるので一応列に並ぶ前に確認しましょう。
私も一度チーム券で観戦したことがあるのですが、応援自体も楽しいしタダで観戦できるし、非常に楽しかった記憶があります。
また行きたいな…。
3.まとめ
以上都市対抗野球を紹介しました。
高校野球に比べると目立たない社会人野球ですが、選手たちは高校生と同じくらい、いや家族や会社を背負う以上もしかしたら高校生以上に人生をかけて野球に取り組んでいます。
社会人ですから表にはなかなか出てきませんが、選手たちの人間ドラマは高校野球以上に濃ゆいものがあります。
そういった社会人野球ならではの魅力というのが広まって、少しでも注目されるようになればいいですね。私も勉強しなきゃな…。
選手たちはこれくらい本気です。
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