注:本記事は新型コロナウイルス感染拡大後の情報を元にしています
【概要】
両国国技館は、1984年竣工、東京都墨田区にある大相撲興行用の施設。
正確な住所は東京都墨田区横網一丁目で、思わず「横綱!?」と思ってしまうが、「横綱」ではなく「横網(よこあみ)」だ。惜しい。海苔の網から来ている地名らしい。
言わずと知れた、日本国国技である大相撲の中心地。日本で1年に6場所行われる本場所のうち、初場所(一月)、夏場所(五月)、秋場所(九月)が行われる。
また大相撲以外でもプロレスやボクシングといった格闘技興行、音楽ライブなども行われており、割と多目的に使われている。
2020東京オリンピックにおいてはボクシング競技の会場ともなり、相撲で用いられる寄せ太鼓が披露されるなどニッポンの伝統文化発信にも一役買った。観客はいなかったが…。
大相撲が興行として行われ始めたのは17世紀初めごろのことだが、最初の国技館が建設されたのはそれから300年ほど時が経った1909年。
当時は東西対抗の団体戦だったようだが、もとは古事記に由来する神事であり、江戸時代は庶民の娯楽であった大相撲はこの頃から近代スポーツ化が進んでいった。
なお、開館直前まで「尚武舘」(しょうぶかん)という名前にする予定だったのを、板垣退助が直前に候補に挙がった「国技館」を選んだためこの名前になったらしい。
これにより公式に大相撲が神事から国技になったのである(ただしそういう法律は今もない)。
しかし1917年に火災により焼失。1920年には再建されるものの、1923年の関東大震災で再度焼失したという歴史がある。火事と喧嘩は江戸の華というが、大正時代でもここ両国ではまだまだ健在だったようだ。
第二次大戦に入ると、国技館は陸軍に接収され風船爆弾の工場として利用されたため、後楽園球場で大相撲の本場所を行ったこともある。
1945年には空襲によりまたも焼失、敗戦後はGHQによりメモリアルホールになってしまったらしい。国民感情的には大丈夫だったのかな…。
その代わりに蔵前国技館が建設され、やがて両国国技館は日本大学の講堂となった。
とはいえプロレス興行やボクシングなどの格闘技は引き続き両国でも行われていた。また学生運動の舞台ともなったという。
昭和の相撲人気をけん引した蔵前国技館であったが、老朽化のため1983年に解体。現在使われている両国国技館は1984年に竣工、今に至っている。
日本の伝統的な国技である相撲だが、国技館は火事と時代に翻弄され続けてきた歴史を持つのである。
というわけで今回は、朝から晩までじっくりと両国国技館で日本の国技である大相撲を堪能した。
【アクセス】
最寄まで★★★★☆
最寄はJR両国駅。総武線の各駅停車しか止まらないものの、秋葉原駅から2駅と立地はよい。
墨田川のすぐ際にあり、墨田区最西端のJR駅だ。
そして駅のホームからは、どどんと国技館が見える。まさしく相撲の街両国の象徴だ。
最寄から★★★★★
もちろん、駅からは徒歩2分ほどで到着。道中に交差点もなく道も広いのでストレスフリー。
とはいえ、それでも帰りは結構混雑する。
【観戦環境】★★★★★
1階部分は座布団のいわゆるマス席、2階はイス席。今回は最も安いイスC席(といっても4000円はする)。
距離はあるものの、どの席からも中央に向かう角度で設置されており席による不公平さは感じない。
つり屋根は日本神話の主神である天照大御神を祀る伊勢神宮のご神木が使われており、まさに神事にふさわしい。
何より、力士がとても大きいので遠くからでもよく見える。改めて生で見ると力士の体格というのはかなり特殊だなあ。
そしてやっぱり、カッコいい。
席はこんな感じ。イス席はA~Cまでランクがありイスの心地よさにも差異があるが、イスC席でも普段スタジアムで座るイスよりはよっぽど快適。
また視認性も、天皇陛下がお座りになるのもこのイス席の一番前とのことなので、見やすさという意味ではむしろマス席よりもいいのかもしれない。
もちろん相撲の迫力、醍醐味を感じるならマス席の方が良いだろうが、初めて行く人にとっては値段的にもハードルが高いでしょうし…。
しかし値段で露骨にイスの種類が違うというのは個人的には興味深かった。
ちゃんとお金を払ってくれる人には還元するというのはちゃっかりしているなあとも思うし、資本主義の正しい姿でもある。
十両以上の力士は、このように電光掲示板で取り組みが表示される。
電気で光らせているだけかと思いきや決まり手もここに表示されるので、いわゆるビジョンになっているらしい。
相撲という伝統的なスポーツでありながら、随所に新しい技術が取り入れられているのが何とも面白い。
ちなみに土俵はエレベーター式になっており、相撲以外のイベントでは簡単に下げることができるようになっている。
1階の入り口はこんな感じ。コロナの関係か解放されており中をのぞき見することができる。
いずれはマス席でも観戦してみたいものだ。
コンコースには売店が点在しており、お土産やグルメなどなど充実。これを見て回るだけでも十分に楽しい。
またタイミングが良ければ親方が直接お店番をしていることがあり、なかでもスイーツ親方こと芝田山親方のパン屋さんは大人気ですぐ売り切れてしまう。
野球やサッカーで言えばOB選手がお店番をしているようなもので、これ以上のファンサービスはないと言っていいだろう。相撲はすげーや。
場内には初代からの横綱のパネルが並んでいるが、当たり前だが初代からしばらくは写真はない。
ちなみに、よく名前が知られている雷電爲右エ門は実は横綱ではないため、ここにパネルはない。
また中には相撲博物館が併設されている。
常設展示はなく相撲の歴史を学ぶようなことはできないが、時期に応じて様々な展示がされているようだ。
私が訪れた時は大横綱・白鵬の企画展。細かい説明書きはないが、ファンなら垂涎ものの逸品が並ぶ。白鵬関直々にトークショーも行ったようだ。
中央に飾られているのは天皇賜杯。これだけずらっと並んでいると実に壮観だ…。
【雰囲気】★★★★★
満員御礼…とはならなかったが、幕内力士の取り組みが始まる16時ごろには客席はかなり埋まった。
昨今のスポーツ業界ではBGMや光の演出で客を盛り上げる、というのが一種のブームになっているが、もちろんそのようなものは一切ない。
取り組みの一連の流れとしては、
呼び出しが両力士のしこ名を読み上げる
→両力士が土俵に上がり、塩をまく、しこを踏むなど一連の動作を行う(この間に懸賞が紹介される)
→時間いっぱいになると観客から拍手が起き、見合って見合ってハッケヨイのこった!
→お互いに礼をし、勝った力士は勝ち名乗りを受けて懸賞を受け取り土俵を去る
といった感じ。このあたりはテレビを見ていれば分かるだろう。
もちろん音楽の類は一切ないが、
呼び出しが見事なら拍手が起き、
懸賞が非常に多い、あるいは面白いものだと拍手が起き、
塩まきが見事なら拍手が起き、
一度見合った後に時間いっぱいになると拍手が起き、
取り組みが終わると拍手が起き、
勝ち名乗りを上げると拍手が起きる。
大相撲はテレビでしか見たことがなかったが、改めて生で見ると実に拍手が起きるタイミングが多く本当によくできていると感じた。
一つ一つの儀式の意味はちゃんと理解できなくとも、力士側は決まった段取りを取ることで気を引き締めることができるし、見ている観客側も盛り上がりポイントが随所にできるのだ。それぞれの動作が必要不可欠なのである。
まさに静と動をうまく使い分け、会場を一体にしていく。これぞ日本が平安時代から培ってきた大相撲という文化がなせる業だ。
日本が世界に誇る極上のエンターテインメントと言ってよいだろう。
物言いがつくと審判がどやどやと土俵に上がって確認を行う。この審判も親方が務めており、相撲において親方の存在がいかに大きいかがよくわかる。
他のスポーツで一流の成績を上げたOB選手が審判を務めることはほとんどないだろう。
その一方でビデオ判定は他のスポーツに先駆けて1969年に導入。新しい技術もどんどん取り入れているのが相撲が長生きしてきた理由の一つだ。
一日の流れとしては、まず朝8時半ごろから14時すぎまで序二段から幕下までの取り組みが一気に行われる。
ここまではお給料がないとのことで、いわば修行の身だ。もちろん衣食住はそれぞれの部屋が面倒を見てくれるらしい。
それが終わると、次は十両の土俵入り。いわば2軍選手といったところか。
そして十両の取り組みが行われる。
15時半過ぎになると、いよいよ幕内力士の土俵入り。この頃にはお客さんも増え、化粧まわしも個性豊かでとても見栄えがする。
続いていよいよ横綱の土俵入り。横綱だけはあまりに別格なので一人で土俵入りを行う。
これがまためちゃくちゃカッコよく、会場の雰囲気も一気に引き締まる。
テレビ中継が行われる16時から18時まで幕内力士の取り組みが行われ、最後にテレビでは映らない弓取り式をもって一日が終了。
この弓取り式がまたとてもカッコよく、一見の価値ありなのだ。これによって会場が引き締まり、気持ちよく帰ることができる。
また弓取り式後には分散退場を促すための抽選会が行われたが、なんと元白鵬関がくじを引いてくれた。
名横綱でも親方となるといろいろと地味な仕事があるんですなあ。
とまあ、朝から行っても途中で飽きるんじゃないかなあ…などと危惧していたが、それは杞憂に終わった。
次から次にテンポよく取り組みが行われ、随所で会場が盛り上がる儀式もあり、一日中見ていても全く飽きることはなかった。
是非ともまた見に行こうと思えた。
天井には歴代の優勝力士が睨みを効かせ、これもまた気持ちが盛り上がるものだ。
最近のスポーツ界では選手のタオルを掲げてアピールすることが多いが、それは相撲界にも導入されていた。
コロナ前からなのかコロナがあって取り入れたのかは不明だが、やっぱり必要とあらば新しいものを取り入れていく姿勢は本当にすごい。
そして新しいものを取り入れていくという意味で最も印象的だったのがこのポケモンとのコラボ。
ポケモンの化粧まわしを作ったほか、行司さんもポケモンをあつらった特別な装束で登場。
懸賞としてピカチュウが土俵を回った際には観客から拍手も巻き起こった。
つくづく相撲が生き残ってきた理由がわかるというものだ。
【グルメ】★★★★★
場内にはグルメコーナーがあり、ここで食事をとることができる。お昼時にはかなりの行列ができるのでなるべく早めがオススメ。
相撲と言えばやっぱりちゃんこ、そして名物国技館カレー。
味やボリュームはもちろん満足だが、二つ合わせて1000円という値段設定もうれしい。
普段のスタジアムグルメに慣れているととても安く感じる。
更に2階のカフェで売っていたすもうあんぱん。かなりのサイズだが、中のあんこが甘すぎずいい塩梅でとてもおいしい。
今回食べた中では一番オススメかも。
そして国技館のお土産と言えばやっぱり焼き鳥。場内の至る所で購入することができる。
鳥は「手を付かない」ので、相撲の縁起物であり、ちゃんこ鍋がよく食べられるのもこれに由来するらしい。そもそも手がないのでは
ちなみに以前トリビアの泉でも紹介されていたが、両国国技館の地下は焼き鳥工場になっておりそこで作られている。場所中は増産されるため、売り切れるということはないらしい。
中身はこんな感じ。10本で1400円となかなかのいい値段だが、味は確かだ。
せっかく国技館に来たなら買ってみるといいだろう。
【街との一体感】★★★★★
両国は相撲の街。駅のコンコースには歴代の名横綱がにらみを利かせている。
駅前のセブンイレブンまで和風になっている。隣接する江戸NORENという施設ではそば、てんぷら、ちゃんこといった和の食べ物を味わうことができる。
中には何と土俵も置かれている。
もちろん国技館横にはのぼりがずらっと並んでいる。これこそ国技館に来た実感がわくというものだ。
江戸東京博物館の写真を撮ったところ、たまたま力士が映りこんだ。
これは特別なことではなく、両国の周囲ではごく当たり前に力士が歩いている。
駅前の大通りにはもちろん力士の像もある。
近くの両国シティコアというビルの中央に円形の模様があるが、実はこれ旧両国国技館の土俵があった場所なのだ。
例えオフィスビルになっても国技館の色は褪せることはない。
【満足度】★★★★★
とにかく、丸一日を使って大相撲を楽しんできた。
古事記にはすでに相撲の記述があったとされているが、それが平安時代、江戸時代を経て現代まで生き残ってきたのにはちゃんと理由があるということがよくわかった。
相撲の儀式自体を紐解いてみてもそれぞれの時代で生まれた儀式を取り入れ継承してきたということだが、現代においてもどんどん新しいものを取り入れアップデートしてきているのだ。
もちろん、根底には相撲自体の迫力、面白さもあるが、やっぱり生き残っていくには時代に合わせてどんどん新しいものを取り入れていかなければいけないということだ。
今回観戦して、このままなら相撲はこれから1000年後も間違いなく存在しているだろうと確信した。
受け継ぐものは受け継ぎ、新しいものは取り入れていくそのバランス感覚は、どの業界にとっても大いに見習うところがあるだろう。
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