注:本記事は新型コロナウイルス感染拡大後の情報を元にしています
【概要】
Jヴィレッジスタジアムは1993年開場、福島県双葉郡にあるいわきFCのホームスタジアム。
Jヴィレッジはその名の通りサッカーのトレーニングセンターで、日本サッカー界初の施設。
東京電力が地域振興事業の一つとして建設したもので、サッカーに限らずラグビー、卓球、バスケなどあらゆるスポーツが可能。
ちなみにJヴィレッジの名は元イングランド代表のボビー・チャールトンによって付けられたものである。
そんなJヴィレッジの運命が大きく変わったのは、2011年3月11日のこと。そう、東日本大震災である。
ただ、地震そのものでは大きな被害はなく、当初は避難所として機能していた。
Jヴィレッジに大きな影響を与えたのは、地震ではなく原発事故であった。福島第一原発から20キロ圏内にあるJヴィレッジは警戒区域となり、避難民は再度避難を余儀なくさせられた。
そして3月15日には施設は国に移管され、Jヴィレッジは数日のうちに「原発事故対応の拠点」になってしまった。
その間、Jヴィレッジやその近くにあるJヴィレッジスタジアムは作業車やプレハブなどが立ち並び、とてもスポーツのできる環境ではなくなってしまった。
スタジアムの時計は、地震が起きた2時46分で止まっていたという。
↓当時の写真などがあります。今となってはとても貴重な記事です。
しかし2013年、原発事故対応の拠点が原発内に移管されたことで、復興への動きが始まった。
2020東京オリンピックの開催が決定したことも、これを後押しした。
そして2017年3月、ついに東京電力によるJヴィレッジの使用が終了。さらに、JR常磐線の新駅「Jヴィレッジ駅」が開業し、以前にも増して施設が充実していった。
2021年3月25日には東京オリンピックの聖火リレースタート地点となり、復興を世界にアピールすることとなった。コロナでそれどころではなかったが…
一方、JヴィレッジスタジアムをホームとしているいわきFCは2012年に創設されたクラブ。
県リーグから東北リーグ、JFLと順調に駒を進め、2020年にはJリーグ入りが目前となった。
しかし、当時ホームとしていたいわきグリーンフィールドでは設備が十分でなくJ3のライセンスが下りなかった。
そこで白羽の矢が立ったのがこのJヴィレッジスタジアムだった。こちらも大きいスタジアムではないが、J3のライセンスをギリギリ満たすことはできた。
こうしてJヴィレッジスタジアムをホームとして申請することでJ3ライセンスを取得、2021年にJFL優勝を果たし、念願のJリーグ入りを果たした。
とはいえこのままではJ2ライセンスの壁があり、またJヴィレッジスタジアムはいわき市ではないので市のサポートを受けることができない。
そんなわけで、今後はいわきグリーンフィールドにホームを戻し、改修して上位ライセンスを目指す方向性のようだ。
すなわち、Jヴィレッジスタジアムでの試合開催は一時的な措置、ということになる。
そんなわけで、今回は数少ないJヴィレッジスタジアムでのいわきFC主催試合を観戦した。
【アクセス】
最寄まで★☆☆☆☆
最寄りはJR常磐線Jヴィレッジ駅。
特急ひたちの終点いわき駅から30分ほどだが、1時間に1本あるかないかの本数しかないためかなり時間の調節が難しい。
駅がなかった時代を思えば、これでもだいぶマシになったと言えるが…。
Jヴィレッジ駅は平成最後に開業したJR駅で、現在「ヴ」が使われる日本で唯一の駅。
2019年の開業時はイベントなどでしか停車しない臨時駅だったが、2020年に常設駅に昇格。
普通列車はすべて停車するようになった。
Jヴィレッジ駅は山あいにある無人駅だが、駅周辺にトイレと自販機があり最低限の設備はある。
首都圏扱いのためSuicaも使用可能。これは地味にうれしいポイントだ。
近くにコンビニなどはないが、Jヴィレッジ内に売店があるので一応利用可能。
ただスタジアムまでかなり遠回りになってしまうので、宿泊客でもなければ寄るのはあまりオススメはしない。
駅に来る前に買い物は済ませておく方が無難。
駅にはサッカーをモチーフとしたイラストやモニュメントがあり、駅を散策するだけでも楽しい。
一番目を引くのはキャプテン翼の作者、高橋陽一さんのイラスト。これはテンション上がる。
ただ写真に収めるのがちと難しい。
最寄から★★★☆☆
駅からは徒歩15分ほど。Jヴィレッジスタジアムの名はついているが、駅やJヴィレッジからはそれなりに離れている。
道中ふと横を見ると、Jヴィレッジ駅、火力発電所、そして海が見えた。
旅している実感が味わえて最高だ。
駅からは左手に見えてくるこ線橋を上る必要がある(写真はこ線橋の上からとったもので、奥側が駅のため左右反対)。
このようにそれなりに起伏が激しく、コンビニなどもないので準備はそれなりにしておこう。といっても15分歩くだけだけど。
Jヴィレッジ宿泊&福島復興の今を見た福島旅行記はこちら。
【観戦環境】★★★★★
さすがにJヴィレッジスタジアムというだけあり、見やすさはなかなかのものだ。Jの名をつけておいて見にくかったら問題だが…。
近くにボールが来ると、選手の掛け声やボールを蹴る音が生で聞こえとても迫力がある。
収容人数は5000人ほどと決して大きくはないスタジアムだが、こじんまりとしているからこそサッカーの空気感を直で感じることができるのだ。
これは大きなスタジアムではできない楽しみ方の一つ。
メインスタンドから見て右側。中央の青くなっている部分がゲートで、スタジアムに入場する人は全員このゲートをくぐる。
このゲートの前に広場があり、グルメやイベントのブースがある。
メインスタンドから向かって左側。こちらには森が広がっており未開の地となっている。
こっちに打ったシュートがネットを超えたらボールはどうやって回収するんだろう…。
メインスタンド裏のコンコース。こういうどうでもいいところを記録に残しておくのが好き。
スタジアム内に大型映像装置はなく、かわりに簡素なスコアボードがある。
このスタジアムは元来エキシビジョンマッチ用に作られたものだから、これくらいで十分なのかもしれない。
そんなわけで、スタメンはこちらにあるボードを使って発表される。
もうちっと大きくしてほしい気もするが、今どきはスマホで手軽に調べられるからこんなんでいいのかもしれない。
照明もあるにはあるが、夜になると明かりが足りなそうだ。実際、Jリーグの規定には輝度が足りないとのこと。
全体的に必要ないところはできるだけ簡素化している印象を受けたが、Jリーグを開催するにはちょっと物足りないかもしれない。
良いスタジアムだけど、やっぱり自前のスタジアムが必要だ。
先ほどの入り口のゲートから見たスタジアム。ここでも見やすそうだが、コンコースでの観戦は禁止。
入り口から左に行くとメインスタンド、右に行くとバックスタンド。
こちらがメインスタンド。このスタジアムでは、屋根はメインスタンドの中央にしかない。
その分チケットは少し高いが、雨や日差しのリスクを考えると十分その価値はある。
バックスタンドにはJ-VILLAGEの文字がある。
ゴール裏に席がない影響で、それぞれのサポーターはバックスタンドの左右に分かれて応援を行う。
応援したくない場合は真ん中くらいに座れば多分大丈夫。
メインスタンドの座席は背もたれもあり座りやすく、関係者席などの各設備がコンパクトに詰まっている。
【雰囲気】★★★★☆
大型映像装置もないこのスタジアムで一番の盛り上げ役がマスコットのハーマー&ドリー。
二人みたいな名前なのに一人しかいないという突っ込みどころはともかく、チームフラッグを振ったりダンスを踊ったりスタジアムを盛り上げていた。
またこの日は地元の高校生がフラダンスのパフォーマンスもしてくれた。
いわきといえばスパリゾートハワイアンズで有名だが、映画フラガールなどの影響もありフラダンスも盛んな地域だ。
コロナによる打撃は大きいようだが、せっかく生まれた文化を何とかつないでほしい。
大型映像装置はないものの、写真では見えづらいがバックスタンドの下にリボンビジョンが設置されている。
スタメン紹介時やゴール時にリボンビジョンによる演出がありなかなかに楽しい。これだけでもあると全然違うものだ。
試合はいわきFCが快勝、J2昇格へ弾みをつけた。Jリーグにフィジカル旋風を巻き起こしている。
【グルメ】★★★★☆
先述の通り、ゲートの前の広場でさまざまなグルメが販売されている。
まず目を引いたのは、こちらのホタテのバター焼きと、
メヒカリのから揚げ。
いわきは海産が盛んだが、これらがまたとてもおいしい。このスタジアムにおいては海産物は必食といえるかも言えない。
こってり系も食べたかったので豚丼を購入。炭火の香りが香ばしくこちらもおいしい。
さらにお兄さんにうまく乗せられてカレードーナツも購入。カリッとしたパンにコクのあるカレーが入っておりこれもまた非常においしかった。
全体的に非常に質の高いグルメがそろっている印象だ。あとは福島のおいしいグルメをどんどん前面に押し出してくれれば最高だなあ。
【街との一体感】★★★★☆
いわき駅を降りると、すぐさまいわきFCののぼりが翻っているのが目に入ってくる。手前にあるフラと合わせていわきの二大コンテンツになっているようだ。
駅前にあるビルにはがんばれいわきFCの文字。JFLから昇格を果たしたばかりのいわきFCにかかる期待はだいぶ大きいようだ。
駅前のビルの中には新聞やモニターが設置されていたり、
いわきFCの試合をエンドレスで流しているスペースがある。コロナで苦しむいわきの希望になっている様子がうかがえる。
駅前の通りには至る所にいわきFCのフラッグがある。ただ、シャッターが閉まったままになっているお店もあり、地方の苦しい現実も突き付けられる。
もちろん、街中にはポスターも貼られているし、
いわきFC仕様の自販機もある。
まだまだいわきFCの旅路は始まったばかりだが、このままいけば市民に受け入れられ文化に昇華する日もそう遠くはないだろう。
【満足度】★★★★☆
まだまだ歴史の浅いいわきFCであるが、JFLから昇格して今非常に勢いがあるし、なにより震災やコロナで苦しむいわきの大きな希望となっていることは確かなようだ。
今後も苦しい状況は続くかもしれないが、いわきFCにはいわきの精神的な支柱のような存在になってほしい。
それこそがスポーツが社会に対して果たすことのできる大きな役割であり、いわきFCの存在意義にもなってくるはずだ。
最後に、震災からJヴィレッジがいかにして復興したかを簡単にご紹介したい。
こちらは、Jヴィレッジの宿泊部屋に置かれている復興の様子を記録した冊子だ。
左が震災前のJヴィレッジスタジアム、右が震災後のスタジアム。
ピッチ上にはプレハブが立ち、無残な状況となっていることがわかる。
冊子の最後のページは、復興が完了したJヴィレッジの空撮写真で締めくくられている。
いわきFCがJヴィレッジスタジアムを使うのは暫定的な措置であるし、再度ホームを移転したらこのスタジアムを使う機会は激減するだろう。
いわきFCの試合を観戦するというJヴィレッジを訪れる理由が作れるうちに、このスタジアムを訪れ今一度震災の被害を実感することはとても有意義なことではないかと感じた。
Jヴィレッジの復興は完了したが、福島の復興はまだまだ時間がかかる。
いわきFCやJヴィレッジは、東日本大震災からの復興を風化させない、という役割もあるのではないかと勝手に思っている。
索引を作りました!
他のスタジアム・アリーナは↓からどうぞ