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地域密着の欠点について考える~日本プロスポーツが陥る落とし穴~【コラムその92】

1990年ごろまで、日本でスポーツと言えばプロ野球の一強状態が続いていました。

そんな日本スポーツ界に大きな風穴を開けたのが日本プロサッカーリーグ、Jリーグです。

 

Jリーグの大きな特徴は、これまで日本にあまりなじみのなかった「地域密着」の考え方を取り入れ、成長していったことです。

Jリーグの地域密着の歴史は以下にまとめています。

sportskansen.hatenablog.jp

 

現在ではBリーグやラグビーのリーグワンにも地域密着の考え方は取り入れられ、プロ野球までもどんどん地域密着を推し進めています。

 

しかしJリーグが開幕してから30年を迎えるにあたり、地域密着の欠点が目立つようになってきました。

そこで今回は、あえて地域密着の弊害について考えてみることにします。

Jリーグをはじめとする地域密着を主体としたプロスポーツリーグが長生きするうえで、避けては通れない問題です。

 

1.日本のプロスポーツに広がっている地域密着

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Jリーグが日本に広めた地域密着の考え方は、今や日本でプロスポーツを推し進める上でほぼ必須の考え方になっています。

 

バスケットボールのBリーグでもJリーグにならってチーム名を「地域名+愛称」に統一していますし、ラグビーのリーグワン、卓球のTリーグでも地域名を取り入れています。

プロ野球でも埼玉西武ライオンズ、東京ヤクルトスワローズなどのように地域名をチーム名に入れるようになりました。

 

Jリーグでの地域密着はさらに進化を遂げ、例えば湘南ベルマーレはサッカーに限らずフットサル、ビーチバレー、トライアスロン、そしてラグビーなどにも取り組んでおり、地域市民のための教室なども頻繁に行われています。

このように地域密着を推し進めることで単なるスポーツチームというだけでなく、市民へのスポーツの普及健康推進など多岐にわたる役割を担うようになりました。

 

もちろん地域密着は結果にも出ており、Jリーグ、Bリーグともにコロナウイルスまん延前の2019年まで観客動員数は右肩上がりとなっていました。地域密着を進めてきたプロ野球も同様に観客数を増やしています。

 

地域密着を進めることで観客は増え、地域にも愛されるようになり、やがてはチームが地域を代表する存在となる。

まさに欠点がなく、今後も末永く続いていくように思えました。しかし、そこにまさか落とし穴があったとは…。

 

2.サッカー界に衝撃を与えた相次ぐ地上波からの撤退

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2020年、日本サッカー界にとって大きな事件が起こりました。テレビ朝日で放送されていた「やべっちFC」が終了したのです。

 

やべっちFCはサッカー部出身のナインティナイン矢部さんが司会を務めるサッカー情報番組。2002年の放送開始以来日本のサッカー情報を抑えられる、日本のサッカー人気を支える屋台骨でした。

 

しかし2020年7月、突如やべっちFCの終了が発表されました。

正確な終了理由については分かりませんが、AFCの放映権の高騰に伴い中継を断念したテレビ朝日にとって、番組を継続しにくくなったことが挙げられています。

 

さらに追い打ちをかけるように、2021年にはTBSのサッカー番組「スーパーサッカー」も終了してしまいました。

こちらはJリーグ開幕当初から続いてきた老舗中の老舗のサッカー情報番組で、実に28年にわたって続いてきた番組です。

完全に終了したわけではなくスポーツニュース番組の「S☆1」のワンコーナーとしてサッカーを取り上げてはいるのですが、それでも放送時間が縮小されてしまったことには変わりありません。

 

更に大きな衝撃を与えたのは、ワールドカップアジア最終予選のアウェイゲームの地上波中継撤退でした。

サッカー日本代表戦と言えば、いわゆるドル箱としてテレビ局に引っ張りだこの存在でした。

歴代のテレビ視聴率ランキングの上位にはサッカー日本代表戦が名を連ねており、地上波から撤退するなど考えられない存在でした。

 

なぜ撤退することになったかと言えば、やはりこちらもあまりに放映権が高すぎるために採算に見合わないから、とのことです。

これはこれでまた別の問題はあるのですが今回はそれは置いておくとして、さまざまな事情によりサッカーは徐々に地上波から姿を消しつつあります。

 

3.「にわかファン」を取り入れるために

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こういったサッカー番組の地上波からの撤退が何をもたらすかと言えば、「にわかファン」がサッカーに触れる機会が減少することを意味しています。

すなわち、ますます「コアなファン」ばかりになってしまうのです。

 

コアなファンがあまりに増えすぎると、行きつく先はコンテンツの衰退、ということはこれまでの歴史が証明しています。

例えばF1が地上波から撤退して人気を失っていったように…。

 

つまりにわかファンはある程度増やしていく必要があるはずなのですが、そんなにわかファンの拡大に対して、残念ながら地域密着は効果が薄いのです。

 

もちろん、地域の力を使って地道にファンを増やしていくことはできます。

しかしこれまでサッカーにほとんど触れたことのない人が興味を持つようにするためには、「全国的なパワー」が必要不可欠なのです。

 

ここまでサッカーを題材にしてきましたが、Bリーグやプロ野球でも同様の悩みを抱えているのではないかと思います。

例えば2021年に行われたBリーグファイナル宇都宮ブレックスvs千葉ジェッツの試合。内容は大変面白かったのですが視聴率はたったの2%に終わりました。

 

またプロ野球でも日本シリーズの視聴率はどんどん下がっており、近年は一けた台が当たり前になっています。

リーグ最終決戦という最も注目されるカードの視聴率の減少はいろいろな理由が考えられますが、一つには地域密着が進んだことでかえってその地域以外の人が興味を持ちづらくなった、ということがあるのではないかと思います。

 

しかし日本シリーズの中ににわかファン拡大のためのヒントが隠されているように思えます。それは2013年の楽天vs巨人のカードです。

この日本シリーズは30%近くの視聴率となり多くの注目を集めたのですが、その理由としては「甲子園のスター田中将大が所属する楽天vs日本最強の巨人」、「楽天球団創設初の日本一」、「震災からの復興に向けた希望の光」といった、日本中の人が注目するようなドラマが数多くあったからだと考えられます。

 

また2019年には日本ではあまりなじみのなかったラグビーがワールドカップにより一躍脚光を浴びることとなりました。

例え選手の知名度が低くても、ドラマさえ作り出せれば「にわかファン」を生み出せることを証明しました。

 

サッカーや野球もオリンピックやワールドカップといった世界規模の大会では高い視聴率を獲得するなど、未だ「日本代表」のブランドは衰えていないことは今後に向けた好材料でしょう。

 

テレビ業界は衰退の一途をたどっていますが、このようににわかファンを惹きつけるストーリーを生み出すうえではまだまだ健在だと思いますし、是非とも利用していきたいものです。

 

4.まとめ

以上、地域密着の欠点について考えてきました。

もちろん、地域密着をやめろとか、意味がないとか、そんなことはみじんも思っておりません。

むしろどんどん推し進めていってほしいと思っていますし、いかに地域密着を進めるかはこのブログにおいても主軸となっているところです。

 

しかしそれだけでは解決できないこともあるのは事実です。

地域密着を推し進めながらいかにして「全国的な人気」を獲得していくかは、スポーツ界全体が一体となって取り組んでいかなければならない課題であると思います。

テレビでも、ネットでも、使えるものは何でも使って何とか方策を考えていきたいものです。

 

 

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