スタ辞苑〜全国スタジアム観戦記〜

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Honda都田サッカー場~Jリーグを逃したアマチュア最強クラブ~

注:本記事は新型コロナウイルス感染拡大の情報を元にしています

【概要】

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Honda都田サッカー場は、1996年拡張、静岡県浜松市にある本田技研工業フットボールクラブのホームスタジアム。

 

本田技研工業フットボールクラブ、いわゆるHondaFCと言えば、

・時にはJリーグ参入ヘの最後の関門、JFLの番人として、

・時には天皇杯でJリーグクラブ相手にジャイアントキリングを起こす下剋上クラブとして、

・そしてアマチュアサッカー界最強クラブとして、

今なお君臨し続ける特殊なクラブである。今回はそんなHondaFCの歴史を紐解いていきたい。

 

HondaFCは、1971年に静岡県浜松市で生まれる。当初は野球部創設の話もあったが、静岡というサッカー熱の高い土地柄ゆえサッカーを選んだようだ。

 

そしてホンダと言えば世界に名だたる大企業であるし、1993年のJリーグ開幕に際してその参入を目指すのは当然の流れであった。

実際、トヨタ日産、マツダ、三菱自動車といったライバル企業のサッカー部はそれぞれJリーグ開幕に名古屋グランパス、横浜マリノス、サンフレッチェ広島、浦和レッズとして名を連ねている。

 

ホンダは当初、埼玉の狭山を本拠とするホンダサッカー部と合併し、埼玉県から浦和ホンダウィンズとしてJリーグ参入を目指す予定であった(狭山にはホンダの工場がある)。

 

ところが浜松のお客さんのためにも浜松を本拠としたいというチーム関係者の意向もあり、結論が出ないままJリーグ開幕を迎えてしまった。

その間に浦和レッズが誕生したのは周知のとおりである。

sportskansen.hatenablog.jp

 

結局、なぜJリーグ参入に至らなかったのか明確な理由は不明であるが、平成不況も重なって本業を大事にしたいというホンダの意向もあったのでは、と言われている。

 

そのまま時は過ぎ1997年、二度目のチャンスが訪れる。

HondaFCがJFL優勝を手にしたのをきっかけに、新たにJリーグ参入を目指すべく浜松FCを立ち上げたのだ。

浜松FCはJリーグの地域密着の理念に合わせるべく、なるべくホンダの企業色を排し、浜松に密着したクラブとして創設された。

 

ホンダが本気を出してこれだけやったのだから、まず間違いなくJリーグに参入できるはず…

その矢先、そこに待ったをかけたのはあろうことか浜松市そのものであった。

 

浜松市が消極的であった理由については、

・スズキなどの浜松の他のライバル企業が足を引っ張った

・浜松市は当初「ホンダ」の宣伝になるなら協力したいと考えていたが、ホンダは前面に出るつもりはなかったため、徐々にフェードアウトしていった

・浜松市民が浜松FCに対して全く乗り気でなかった

などさまざまな説があるものの、実際のところはよく分からない。

 

いずれにせよ、浜松市は「協力する」から「応援する」というスタンスに変わっていった。

自治体の協力がなくしてはJリーグクラブなどできようはずもない。

完全に心が折れたホンダは、この時Jリーグ参入をぱったりとあきらめてしまった。

 

こうした浜松とサッカーの関係についてはいろいろと謎も残るが、ホンダやヤマハといった大企業がJリーグを目指し次々に散っていったことを考えると、なかなかに根が深い問題と言えそうだ。

浜松ではなく磐田からJリーグ参入を果たしたジュビロ磐田についてはこちら。

sportskansen.hatenablog.jp

 

そんなHondaFCは現在でもホンダのサッカー部として活動。選手はホンダの正社員として働いている。

その強さは本物で、JFLにおいては9度の優勝を誇り、天皇杯ではJリーグクラブを破ってベスト8くらいには当たり前のように進出してくる。

実力的にはJ2でも十分に戦えるのではないか、とも言われている。

 

プロサッカー選手は生き残りも厳しいため、引退後も社員として安定して働けるHondaFCは、選手にとっても一定の需要があるようだ。

一方でJリーグに引き抜かれる選手も一定数おり、日本サッカー界を陰から支えている。

 

今回はそんなHondaFCの試合をHonda都田サッカー場で観戦した。

こちらのサッカー場はJリーグを含めても非常に珍しい自前のスタジアムである。さすがホンダだなあ。

 

【アクセス】

最寄まで★★★★★

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最寄はJR浜松駅。新幹線も止まるターミナル駅でとても便利。

スタジアムからの距離で考えれば天竜浜名湖鉄道の常葉大学前駅が最も近いが、徒歩30分ほどかかるのであんまりオススメはできない。

ただ後述の理由により、場合によっては候補に入れてもよいかも。

 

最寄から★☆☆☆☆

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浜松駅からはバスで40~50分ほど。いくら浜松駅から行けるとはいえ、このアクセスの悪さは致命的…。

ちなみに今回、たまたまではあるがジュビロ磐田のラッピングがされているバスが来た。ジュビロのバスに乗ってHondaFCの試合を見に行くとはなかなか不思議な体験だ。

 

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またバスによってはスタジアムの目の前まで行ってくれないため、さらに15分ほど歩く場合もある。

平坦な道なのでそれほど大変ではないが、手間は増えてしまう。

 

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極めつけはこの本数の少なさ

2時間に1本あるかないかの頻度しかないうえ、終バスは土日だと15時半という早さ。しかもここ数年、どんどん本数が減っている。

 

こういった事情を鑑みると、徒歩30分をかけてでも駅まで歩くという選択肢が入ってくるのだ。

なかなかやっぱり、頻繁に行くのは厳しいなあ、という立地である。

 

磐田と浜松を少しだけ観光した旅の記録はこちら。さわやかおいしい。

sportskansen.hatenablog.jp

 

【観戦環境】★★★★☆

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大きくはないスタジアムだけにとにかくピッチとの距離が近い!

こじんまりとしたスタジアムの良さはここにある。

 

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目の前にボールが来ると、選手やコーチの会話まで丸聞こえ。

これはJリーグではなかなか体験できない、アマチュアならではのサッカーの楽しみ方と言えるかもしれない。

 

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ただし観戦するうえで大きな問題となるのが、柱や壁などの遮蔽物の存在。屋根があるのはありがたいが、その代償として視認性が悪くなっている。

席によっては目の前に柱があることもあり、実質座れないところもある。古いスタジアムは観客の快適性までは考慮が及んでないところも多い。

スタジアムも時間をかけて進化しているんだよね。

 

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ビジョンなどはなく、メンバーや得点、時計は1枚のボードに集約されている。

ホンダが本気になれば大型ビジョンを設置するなど余裕だろうが、そこはやっぱり経費をかけられないということかな。

その分選手にお金をかけてくれればいいんですよね。

 

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スタジアム全景、と言っても平べったくのっぺりしている。

チケットは大人500円で、写真左のプレハブで売っている。売り切れることとかってあるのかな?

 

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こちらがメインスタンド。選手ののぼりも並んでいる。

 

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メインスタンドのコンコース。屋台やグッズ売り場などが並んでいる。

ちなみにトイレは仮設式。…ここに来るまでに済ませておいた方がよさそう。

 

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ここにはHondaFCの歴代の選手の名前が刻まれている。たとえJリーグには入れなくても、選手になれればその証がここに残るのだ。

それだけでも人生の財産になるだろうな。

 

【雰囲気】★★★☆☆

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スタジアム横には大きく「HAMAMATSU」の横断幕。どれだけ浜松市にないがしろに扱われても、ホームタウンは浜松なのだ。

 

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ちゃんとマスコットもいる。それだけでもスタジアムの雰囲気が柔らかくなる。

 

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ロッカールームの位置の関係か選手入場の角度は斜め45度に傾いている。Jリーグではなかなか見られない不思議な光景。

 

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かなりのへき地にあるスタジアムだが、800人以上のお客さんが集まった。

反対側のスタンドにはHondaFCを応援する人たちの他多くの子供たちが集っていたので、集客のほとんどはそれによるものだろう。

子供たちは生でサッカー観戦出来ていい経験になったのではなかろうか。HondaFCの大きな存在意義と言えるだろう。

 

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試合後には目の前で挨拶してくれた。声をかければ余裕で聞こえる距離だ。

というかスタンドにいた友達らしき人と普通に会話していた。アットホームだねえ。

 

【グルメ】★★★☆☆

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屋台で売っていたオムそば。目の前で焼いてくれて食欲がそそられる。

しかし味はともかく、ちょっとミニサイズだな…。

 

【街との一体感】★☆☆☆☆

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浜松がホームタウンではあるものの邪険に扱われたという歴史もあり、なかなか大々的な活動も出来ないようだ。Jリーグじゃないからする必要もないのかもしれないが…。

それでも子供たちのサッカー観戦の機会を作ったり、地域に対して一定の役割は果たしていると感じる。出来ることを出来るなりにやっている。

 

ちなみに写真は役員専用駐車場。どの会社においても、下手なお客さんより役員の方を丁重に扱うっていうのはあるあるだよなあ…。大きい声では言えないけどさ。

もちろん出てくる車はホンダの車ばかりだったよ。

 

【満足度】★★★★☆

Jリーグの大規模なスタジアムと違うとはいえ、アマチュア最強クラブなりの良さが詰まった面白いスタジアムだなあと感じた。

あまりにアクセスが悪いのが難点だが、サッカー観戦が好きな人は一度は訪れてみる価値があるだろう。何かしら面白い発見があるはずだ。

 

 

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